米国・代替医療への道 1997

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米国代替医療の現状<笑い>療法

  笑いは免疫力を高める

「笑う門には福来る」――諺が示す通り、「笑い」の積極的効能は古くから誰もが認めるところだ。だが、これを病気の治療法に使おうという考えは、ここ20年ほどの間に急速に進歩した。笑いを発生させる「ユーモア(humor)」の語源「umor」の意味は「液体」。中世の頃、エネルギーが体液や感情の状態を左右、健康や性質までをも決定すると思われていた。また、快活な性質(humor)は血液に関連。怒りっぽければ胆汁、無気力なら粘液にそれぞれ関連すると言われた。

心と身体の相互作用は大きいものがある。ロマリンダ大学臨床疫学のバーク教授は「笑い」とヒトの免疫との関連を調べたが、「笑い」は血清コルチゾール値を下げ、活性T細胞やキラー細胞の数を増やすという。ヒトが怒り、苛立ちなどの緊張にさらされると、副腎からコルチコステロイドを放出(血液の中ですばやくコルチゾールに変化)、免疫抑制効果を増大させる。同教授の研究によると、笑いがこのコルチゾールを抑えるという。またリンパ球を放出するのが活性T細胞。リンパ球は、異物侵入の「警戒警報」を発し、闘いに臨む。キラー細胞も同様に、ウイルスやがん細胞に襲いかかる一種の免疫細胞。

体組織を傷つける作用を及ぼすストレスとは全く反対の働きをするのが「笑い」ということになる。バーク教授の研究は、その後の精神神経免疫学の急速な発展に影響を及ぼした。さらに、バーク教授の研究を裏付けるT細胞やキラー細胞の変化と感情の関連を調べた研究がハーバード大学やオハイオ・ステート大学などで行われた。

15分間爆笑すると2時間安らかに眠れる

「笑い」の働きを初めて治療法に採用したのは、医学者ノーマン・カズンズ氏と思われる。1964年出版した「Anatomy of an illness」の中で取り上げている。脊柱が曲げられなくなり、極度の痛みを伴う炎症性疾患「強直性脊椎炎」に罹ったカズンズ氏は、「笑い」治療を自らに施すことを決めた。結果として、15分間爆笑した後は2時間安らかに眠れることを発見。血液検査でも、治療の後では炎症の度合いが低下していることが判った。しかし、こうした治療法は、1979年「New England journal of medicine」誌に掲載されるまで取り上げることはあまりなかった。

その後は、各医療機関、企業が次々に「笑い」治療に注目。様々なプログラムを確立するようになった。特に医療機関では、患者に対するプログラムは勿論のこと、スタッフに対するものも用意する。看護婦を始めとするスタッフは、日常の激務でストレスにさらされる度合いが大きい。精神ばかりでなく、肉体的に障害を受ける例が多かった。

IBMなど大手企業が提携申し入れ

教育関連の団体として1986年に発足したCarolina Health & Humor AssociationCarolina Ha Ha)はこの治療法への関心が高まる傾向を受けて、企業、医療機関向け、また育児用にと様々な用途別にプログラムを開発している。例えば1987年、創設者ルース・ハミルトンがデューク大学病院用に開発したのが「Laugh Mobile」。これはさらに手を加えられ、「Duke Humor Project」としてがん患者用治療プログラムに登場した。どことなくサーカスを思わせる展示用ワゴンが、本、ビデオテープ、ゲームなど、感情を生き生きとさせる材料を満載して出てくる。患者は、そうした材料を使って感情を能動的な状態にしていく。一方、笑いを提供する側は、ギター演奏、ヨーヨー実演などのパフォーマンスを繰り広げる。中でも、水鉄砲遊びは患者の気分を高揚させ、闘病意欲を増加させるのにかなり作用したという。

Carolina Ha Haは、こうしたユーモアによる治療技術を習得するセミナーも開設している。これには大手企業のGlaxo WellcomeIBMが関心を示し、ハミルトンとの契約を結んでいる。